このページは、賃金制度の見直しを中小企業がする際のチェックポイントを詳しく解説しています。法令だけでなく社長の気持ちをかなえたうえで、運用できるシンプルな賃金制度をつくるため、見直していくべきチェックポイントをみていきます。
賃金制度というと、等級がどうとかモデル賃金とかって言葉がでてきたりしますが、中小企業の現場ではそのようなものは一切いりません。むしろ、それが邪魔をしているといってもいいと思います。中小企業の現場は、社長が見えていることがほとんどです。
「人事評価を絶対評価ではなく相対評価にするべき理由」の記事でもお伝えしていますが、評価を社長の見たままにしていき相対評価で判断することが最も重要になってきます。その評価をそのまま反映させるのが中小企業のためのシンプルな賃金制度になるわけです。
そのことを前提として、見直していく必要があります。なので、基本的に給与は社長がワガママに決めていくことを私は推奨しています。とはいえ、どう決めればいいかわからないので給与制度を見直すためのポイントを順番に解説していきたいと思います。
現在の年収が実力通りになっているか?
私がよく聞く経営者の賃金の話では、ウチは実力主義になっているからと言います。しかし、実際にはそうではなく年齢や学歴などが給与に反映しています。例えば、高校卒業して4年間勤務している従業員と大学を卒業した1年目の給料はどっちが高くなっているでしょうか?
このケースでは、多くの場合は大学卒業後1年目の何もできない新入社員の方が給与が4年間働いて戦力になる高卒の人よりも高くなっています。これで本当に実力主義であるといえるでしょうか?大学卒業後、何年か働いて給与を抜くのであれば問題ありませんが、大卒1年目からそんな状況です。
実力主義といいながら実力主義になっていないことがほとんどなのです。では、それをどのようにチェックするのでしょうか。賃金制度見直しの最初にしなければいけないのは、実態と給与がどれだけかけ離れているのかということを確認しなければなりません。
なので、一番最初にすることは昨年1年間の年収を社長が把握することです。具体的には、普段給与計算を給与ソフトでやっているでしょうから、それをエクセルに落とします。エクセルなので、そのデータを年収順に並べかえるのです。
もちろん、そこには残業代も含みますしボーナスも入れます。年収でどんな順番になっているのかを確認する必要があるのです。もちろん、そんなことは社長自らする必要はありません。事務の人に並べ替えたデータをもらえばいいわけです。
そこで、年収が社長の評価と大きく異なっていたら見直しをかけなければなりません。なので、年収がくるっている原因がどこにあるのかチェックしましょう。この段階で多いのは、勤続年数が長いことや学歴の問題。残業をかなりしているために年収が多いというケースもあります。
課長になって課長手当がつくようになり、残業代がなくなったために年収が逆転しているなんてことも多いです。しかし、実力主義でいくのであれば社員の年収は社長がいなくなって困る順番と同じにならなければなりません。
評価は、基本的に社長の相対評価で決めますので年収もそれと同じようにしていかなければなりません。このあたりをバランス感覚をもって上手に経営できている人も中にはいるのですが、そういった社長は決して多くありません。なので、この現状を見直していくということから新しい賃金制度はスタートします。
年収を社長の評価と同じに見直す方法
まず、賃金制度を見直して考えなければならないことは基本給などの月給は本人の同意がない限り下げれないということです。なので、本人の同意をとって調整していくのか。違うスタイルで見直しをかけていくのかという方法になります。
違う方法というのは、大きくわけて二つになります。一つは、高止まりしている月給の人の昇給を停止するということです。これは、就業規則などで昇給を約束していればそこの変更も必要になります。しかし、そんな確約した文言がなければ、停止することは違法ではありません。
なので、月給が評価に反して高止まりしている場合は昇給をしないというのが一つ目の方法になります。二つ目の方法としては、ボーナスを減給するという方法です。これも、就業規則に確約してなければ会社で自由に決めれるものになります。
なので、ボーナスをまったくなしにするというのも一つの方法になります。給与が高くて評価が著しく低いのであれば、このような方法をとってもいいでしょう。それで、その従業員が不満に思ってやめてくれれば最も社長にとってはいい解決策になります。
いずれにしても、本人の同意なしに月給を下げることはできませんので基本は昇給とボーナスで調整ということになります。また、年収が残業を理由に高くなっているのであれば、ここもボーナスで調整します。
労働基準法というのは、製造業のために作られた昔のままの法律になっています。なので、現在の実態にはあっていません。生産性が低く残業をする人が残業代をもらって給与が高いというのは、どう考えてもおかしい制度になります。
同じものを1人は、5時間で仕上げ、もう一人は10時間かかる。この場合は前者の方が明らかに優秀なはずです。しかし、法令をみると、後者に残業代が支払われるわけです。そうであるのなら、これを年収で調整するという発想をもつべきでしょう。
残業が多くて、年収が高くなっている人物がいるのであればこれもボーナスで調整するという方法をとります。もちろん、本人の同意を得て月給を下げるというのが経営者の希望としては最もいいのですが、これについてはかなりの労力が必要です。なので、まずは昇給と賞与を見直しましょう。
就業規則の変更
これまでの話の中で、すごく大事になってくるのが就業規則です。就業規則の中でも特に賃金規定のところです。ここに、細かく給与のテーブルとかをのせているのであれば、それを先に変更することが必要になります。
昇給の金額だったり、ボーナスを支払うという表現にしているのであればそのあたりをあらかじめ変更しておかなければ、もめた後にお金を支払う必要がでてきます。なので、就業規則の変更はあらかじめしておきましょう。
その中で、気を付けなければならないのは不利益変更がある場合は労働者の同意が必要であることです。賃金テーブルがあるだけなら、説明して削除しても問題ないのですが、賞与を支払うとかって文言になっていた場合は一人ひとりの同意が必要になってきます。
そんなケースでは、骨が折れますが同意をとっていくほかないでしょう。ただ、賃金制度の見直しをしようとするのであれば、一気に賃金制度の見直しまで手をつけるのではなく、まずは就業規則の文言を変更するという作業をする。
それから、しばらくたってから給与制度の見直しをしていくというほうがスムーズにいきやすいです。まずは、最悪の状況の就業規則をなんとか変更しようとすることが先決になります。ここで、一気に賃金制度の見直しまで行うと反発が起きてしまいます。
もちろん、社長や従業員との人間関係もありますが、もめるケースが多いのがこの就業規則と賃金制度の見直しまでを一気にやろうとした場合が多いです。なので、賃金制度というのは従業員の生活に直面する問題なので慎重に見直しまでのスケジュールをたてましょう。
評価制度の見直し
私は、社長のみたままに評価するのが中小企業にとってはいいという話をお伝えしてきました。しかし、労働者の立場からすると、社長のワンマンで決めるのかという反発が起きてしまう可能性があります。これまで、ガッチリと賃金制度があればあるほどその可能性は高いです。
なので、そこで取り入れてほしいのが360度評価という手法になります。全員に一緒に働きたい人というので順番をつけてもらいます。それが、社長のものと近ければ社長の評価でそのままいけますよね。どんな組織でもそうですが、一生懸命働いていたら目立ちます。
学校で通知表やテストの点数を見てないけど、頭がいい人がわかるのと同じ原理です。そのため、同じような評価になっている可能性は高いです。しかし、もし他の従業員と大きくかけ離れている場合はしなければならないことがあります。
それは、労働者一人一人とのコミュニケーションをとることです。どのようにそれを行うかというと、賞与面談という形で行います。賞与でなくてもいいのですが、とにかく面談をすることでコミュニケーションをとることです。
そうすることで、普段どんな考えをもって仕事をしているのか聞くこともできるし、社長の気持ちを伝えることもできます。日本人は、特に気持ちを伝えるのが下手な人種ですね。しかし、夫婦でもお互いの気持ちはわかりません。
従業員と社長という別の立場であれば、それはなおさらです。そのため、面談をする時間をもちましょう。そして、面談をするのであれば、お金とセットの方がいいです。よく、お金はモチベーションアップにはつながらないといわれます。
しかし、実際にお金の支払いと同時に承認されたらどうでしょう。人間は、だれにでも承認欲求があります。相手に認めてもらいたいという欲求です。面談で、優秀な社員にはしっかりと認めてあげる。ねぎらいの言葉をかけてあげるのです。
お金は、モチベーションにはならない。一度もらうと、もらって当たり前になるといいますが、承認と一緒であれば認めてくれているからお金をもらえるというスイッチが脳に入るわけです。ただ、お金を渡すのではなく承認することで・・・だからたくさんもらえる。
そう動機付けを従業員がするようになるのです。なので、面談とお金はセットになるわけです。昇給でもいいですし、ボーナスでもいいのですが面談とお金はセットであると意識してください。そうすることで、優秀な人材からやめていくという状況を防げるようになるのです。
人事評価を賃金制度に簡単に反映
ここまでで、賃金制度の見直しは昇給とボーナスで行うとお伝えしてきました。また、コミュニケーションがあまりとれていないのであれば、面談を使いましょうとお話をしました。ただ、面談についてはコミュニケーションがうまくいっている会社も利用しましょう。
評価の高い社員は、ますまるやる気になってくれます。逆に、評価の低い労働者は会社を去ってくれる可能性があります。面談は、ただ承認するだけでなく直してほしいことも当然に話しますので、どの会社にもおすすめの手法になります。
さて、ここからは人事評価と給与制度をシンプルにリンクさせる方法をお伝えしていきます。評価は、相対評価であるお話を何度もしましたね。具体的に例をあげてみていくことにしましょう。A社は、従業員10人います。昇給の原資が150万円あるとしましょう。社長の評価は以下の通り。
評価順 | ポイント |
Aくん | 90 |
Bさん | 85 |
Cくん | 65 |
Dさん | 60 |
Eさん | 55 |
Fくん | 50 |
Gさん | 40 |
Hさん | 40 |
Iくん | 10 |
Jくん | 5 |
合計 | 500P |
<計算式>
昇給額=昇給原資×評価ポイント/合計ポイント
●Aくんの昇給額
昇給額=150万円×90/500P=27万円(年額)
27万円/12月=22,500円
●Bさんの昇給額
昇給額=150万円×85/500P=25.5万円(年額)
25.5万円/12月=21,250円
●Cくんの昇給額
昇給額=150万円×65/500P=19.5万円(年額)
19.5万円/12月=16,250円
●Dさんの昇給額
昇給額=150万円×60/500P=18万円(年額)
18万円/12月=15,000円
●Eさんの昇給額
昇給額=150万円×55/500P=16.5万円(年額)
16.5万円/12月=13,750円
●Fくんの昇給額
昇給額=150万円×50/500P=15万円(年額)
15万円/12月=12,500円
●Gさんの昇給額
昇給額=150万円×40/500P=12万円(年額)
12万円/12月=10,000円
●Hさんの昇給額
昇給額=150万円×40/500P=12万円(年額)
12万円/12月=10,000円
●Iくんの昇給額
昇給額=150万円×10/500P=3万円(年額)
3万円/12月=2,500円
●Jくんの昇給額
昇給額=150万円×5/500P=1.5万円(年額)
1.5万円/12月=1,250円
いかがだったでしょうか?計算もすごく簡単ですよね。下位の二人についても昇給していますが、これだけ評価が低い場合は昇給しないという方法もありだと思います。評価が著しく低い社員というのは、経営者にとってはやめてほしい人になります。
なので、しっかりと評価に差をつけて自然と退職してもらうというのも組織全体を見たときは大事になってきます。従業員の人も貴社とは合わなかったかもしれませんが、他社ではあう可能性もあります。なので、力が発揮できていないならそれなりの処遇にするというのも愛情だと私は思っています。
賃金制度の見直しまとめ
賃金は、誰にいくら支払うかという経営上もっとも重要なものの一つになります。見直しをする方法として重要なポイントは、まず現状を知るということです。しっかりと社長のあなたが評価している通りの年収になっているかをエクセルで並べてもらってチェックしましょう。
そのうえで、昇給や賞与で調整していくということです。法令上、月給を下げることは本人の同意を必要とします。なので、手をつけるなら昇給・賞与からです。もちろん、以前に作った等級制度があり就業規則に記載されているのであれば、それを変更する必要があります。
そのうえで、賃金制度を見直しをしていきます。従業員の理解が得られそうな時は、本人同意で月給を下げていくことも検討しましょう。その際に、ドラスティックになるときは段階的に変更をしていくというのがスムーズにいくポイントです。
賃金制度の見直しをするときには、それと併せて評価を伝える面談制度をもうけましょう。そこで、しっかりと従業員とコミュニケーションをとります。このコミュニケーションは、頑張っている労働者を承認し、直してほしいところを伝えるためのものです。
賃金制度の見直しするケースでは、労働者の感情というものも重要になってきます。なので、社員と社長がしっかりとコミュニケーションがとれているかどうかというところも大きなポイントになります。社長としては、優秀な相手には特にコミュニケーションを日頃から意識しましょう。
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